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コラム
 
今回の同時改訂で見えてきたこと 病院と診療所、地域による経営戦略の見直しを急ぐ
福島 公明氏
立命館大学
医療経営研究センター
客員教授

 6年に一度の診療報酬と介護報酬の改訂が行われた。診療報酬について考察する。
今回の改訂の基本はいうまでもなく、地域医療包括ケアシステムの構築と医療機能の分化と強化、連携の推進である。すなわち「住みなれた地域で、長く暮らす」という事がその目標となる。この様な政策の中では、病院と診療所の経営の違いについて論じてもこの政策に「追随出来ない。病院規模に関する要件は400床に下げられた。この事により400?500床の病院の外来戦略の見直しを余儀なくされるであろう。病院も規模の大小、その機能もさることながら、施設が置かれている地域が今後どの様になって行くかを見極めなければならない。それも2030年を見据えて検討する必要がある。現在の国の借金は1100兆円に近づきつつあり、2030年はそれが2000兆円を超えると推定されて、医療制度の大幅な改革が行われるであろうと言われている。2025年ではないのである。病院はこれから12年後の戦略を今から策定する必要がある。特に病院の建て替え、大型医療機器の更新など大きな資金が動く可能性のある病院はここが正念場である。

 言うまでもないが、医療は公共性の高い事業であり、地域医療を担っているのであるから廃業ができないと言われている。医療IDと電子カルテの共有化は近い将来に実現するであろうが、膨大な病歴を預かっている医療機関は廃業ができない。だからこそ自分の子どもを医師にしてあとを継がせようとしているのである。この長く蓄積された膨大な患者さんの病歴を継いで地域医療の為に頑張ってもらわなければならない。そうでなければ、可愛い子どもを生涯収入の多い大企業に就職させた方がいいと思うに違いない。

 話を元に戻そう。「地域医療包括ケアシステム」の地域とはどの範囲を言うのであろう。日本の人口の47%は都心部に集中していると言われるが、残りの人口は日本全国に散在している。特に過疎地に関していえば包括ケアシステム等と言ってはおれない。診療所もどんどん廃業されてきている。お年寄りの方は自力では病院へも行けない、しかしながら在宅医療はもっと現実的でない地域の現状がある。先日お寺の住職から興味深いお話を聞いた。ある過疎地でお年寄りがお亡くなりになったが、死亡診断書を書く医師が近くにいない。しかし仏教のしきたりにより時間との戦いで葬儀の準備を進め、納棺も行い、仏式の葬儀を先に進めた。最後に医師が来てくれ納棺されている故人の診察を行い「ご臨終です」と宣言し死亡診断書を書いてもらい、出棺ができたそうである。これも現実である。

 今後は包括ケアシステムからさらに進み、「地方共生社会」の実現が新たな政策の目標となっている。医療機関、医療を担う人だけで地域を支えて行く事には限界があることが明確になった。地域共生社会とは、「支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、福祉などの地域公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる仕組みを構築する」(厚労省資料より)とある。地域の住民が役割を持つと言うことは、医療機関の職員は医療だけを担うのでなく地域社会の様々な役割を担う。そして病院はただ医療を担う場所というだけでなく、地域共生社会の拠点としての役割も担う事が要請されるであろう。

 更に大きな流れが出てきた。4月10日の報道によれば、「財務省がまとめた中長期的な社会保障改革案が十日、分かった。(中略)厚労相や知事が特例で単価を定められる「地域別診療報酬」の全国的な導入を進める。これまで制度はあっても活用例はなかったが、奈良県が実現を目指しているのを機に国が後押しする。
との記事がでた。(東京新聞4月10日夕刊) これは「診療報酬の特例」と言われているものであるが、これまでは現実性がないとして注目されてはいなかった。しかしながら、奈良県はこの制度を利用して1点 9.5円を目指しているとの風聞は前からあったが、いよいよこの事が現実のものとなってきた感がある。もちろん住民の医療費は低減するのであるから、この事は県民感情としては前向きになるだろう。しかし医療機関はどうか?

 「病院と診療所」の経営についていえば、この病院と診療所の二つの対比だけではなく、「都会と地方・過疎地」の対比の二つのパラメータを縦横に展開して、自院が置かれている状況を分析して経営戦略を立てる必要がある。期間は2030年までの中長期である。
 医療は決して無くなることは無い、しかしながらそれを支える社会保障制度が今後どの様に変化するか?その事をいち早く見極め柔軟性を持って対応する事が、自院の置かれている地域医療を継続して支えると言う責任を担う事ができるのである。

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