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コラム
 
患者視点の経営を
東日本税理士法人 代表社員 所長
社会・特定医療法人協議会 代表
監査法人長隆事務所 長英一郎 氏

1 NGワードと気づかない「在院日数の延長」
 よくある病院の経営会議での会話。
医事課長「今月は前年度と比較して病床利用率が5%ほど下がっています」
事務長「在院日数を1日伸ばして病床利用率を上げられないか?」
 一見、増収につながる提案ですが、医師や看護師のモチベーションを下げることにつながることに事務方が気づいていないことがあります。患者利益を重視する医師、看護師。経営利益を重視する事務方。病院経営が苦しくなると、2つの利益の対立が強まってきます。
 一般企業では顧客利益を軽視して経営をすれば、いずれ顧客は離れ売上高は下がっていきます。病院の場合も患者利益を軽視すれば、長期的には医業収益(売上高)が下がっていくはずです。モチベーションを下げた医師、看護師。そしてその家族が病院の患者になるはずが、他の病院を選択するということがあるわけです。

2 入院日数延長は患者の不利益に
 では、入院日数を伸ばすことがいかに患者にとって不利益になるのでしょうか?
 認知症患者について、下記のようなエビデンスがあります(エビデンス1)。認知症患者は入院している時よりも在宅にいる時の方が行動障害が少ないという研究結果です。裏を返せば入院期間が長くなれば、行動障害が増え、身体拘束につながるという悪循環になります。また、入院して抗精神病薬の使用が増えれば、薬品費の増加につながります。

エビデンス1:「在宅医療の方が一般入院に比べ、認知症の行動障害は少なく、抗精神病薬の使用も少ない」(在宅医療に関するエビデンス2015 U)
 入院日数を伸ばしているのは、入院リハビリ継続のためという面もあるかと思います。しかし、入院リハビリは在宅で行う訪問リハビリと比較して、患者満足度やQOL(生活の質)の点で劣っているとされています(エビデンス2)。できるだけ早く退院して、家でリハビリを行うことが患者の利益に資するわけです。

エビデンス2:「亜急性期から慢性期における在宅での訪問リハビリ(運動器疾患)は、入院リハビリと比較して、生活機能・認知機能・QOL・患者満足度において、同等もしくは優れている」(在宅医療に関するエビデンス2015 T)

※エビデンスレベル「在宅医療に関するエビデンス」では、研究結果がいかに信頼できるかをTからYまでの6段階に分けており、T、Uはかなり信頼度の高い研究結果である。

3 認知症ケア加算の趣旨をどう説明するか?
 認知症患者に算定される「認知症ケア加算」があります。事務局は、認知症ケア加算を算定するに当たって、算定増収額にフォーカスして医療従事者に説明しがちです。「認知症ケア加算」は入院中毎日算定できる点数で、年間で○○万円の増収になるといった説明がなされます。
 しかし、「認知症ケア加算」の本来の趣旨は、認知症自立度V以上といった日常生活に支障のある患者を病院で受け入れ、身体拘束をできるだけしないということにあります。そのため、医療従事者には「身体拘束をできるだけしないことにより、患者の尊厳を守り、患者家族の安心につながる」という説明をすれば、患者利益を考えた提案として受け入れられやすくなるかもしれません。

 
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