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コラム
 
コロナ禍2020増収増益ストラテジー 前編
医療法人八女発心会 姫野病院
理事 姫野 こなみ 氏

 筆者が理事を務める医療法人八女発心会姫野病院(福岡)では、コロナ禍において前年比増収増益を保っている。これには複合的な要因があるが、この歴史的な年となった当院の2020をまとめた。

炎上!新型コロナ患者の受け入れ 〜激動の春〜
 4月1日、筆者の夫である姫野亜紀裕は、コロナ禍で法人の理事長(兼:院長)となった。父親の姫野信吉からバトンを受け継ぎ、40歳にして約800人の従業員を幸せにするという大役を担った。
 理事長就任から数日後、保健所のスタッフが殆どアポなしで来院し、ここで初めて新型コロナの受け入れ要請があった。院長は使命感から受け入れることを即答し、これを聞きつけたテレビ局が取材に来た。
 未だ実際に入院には至っていなかったため、受け入れ準備などについて院長が取材対応したのだが、なんとこれが従業員に周知するよりも先にテレビ放送されてしまった。院内の従業員たちは、理事長に就任したばかりの院長に対する不信感と新型コロナへの恐怖で激怒した。
 すぐさま院長は院内で説明会を繰り返し、不安に対する膨大な意見に対応したが、炎上は続いた。それでも一部の従業員には院長の熱意と使命感が伝わり、新型コロナ専属のスタッフが集まった。なお当院では、もともと全140床が個室の設計であり、また陰圧換気も備えていたためハード面の準備は容易であった。著者はマスクなど衛生材料の確保に奔走し、独自のコネを駆使して何とか物品も充足させることができた。

新型コロナのイメージがあるにも関わらず、患者さんが増えた! 〜信頼〜
 こうして新型コロナの患者さんの入院が相次ぎ、民放だけでなく全国放送でもニュースとなった。特に「報道ステーション」で取り上げられてからは、全国から支援の連絡や企業からのギフトが届いた。
 著者も院長も、地元で嫌われるのではないかと戦々恐々としていたところ、地域の方から当院に複数の電話が鳴り響いた。「もしもし、新型コロナの患者さんを受け入れてるんですよね?」と。こちらは苦情が始まるのではないかと身構えたが、意外にも「がんばってください」「もし自分が感染しても姫野病院があるから安心です」など、温かい激励の言葉が続くのであった。こうした地元のみなさんの暖かい心は、受診・入院や入居などの数にも反映され、姫野病院の病床稼働率は常に100%超え、法人の関連施設の入居率も満床か約9割を維持している。
 従業員の中には、子の保育園や知人から心ない言葉を投げかけられたという事例もある。それでも、使命感で勤務を続けてくれた全従業員には、おかげさまで夏季も冬季も賞与を満額支給することができ、約400名が参加したオンライン忘年会では豪華景品を提供することもできた。

これからの、新型コロナ患者の受け入れ 〜自律分散型組織〜
 そういえばコロナ禍でも、当法人では面会禁止にしなかった。院長が面会による効果を信じているためだ。大事な家族との面会は、患者さんの治療効果を高め、認知症の進行を遅らせ、入院期間を短縮させ、死亡率を低減させる効果が実証されている。こうした効果の方が、僅かな感染リスクの上昇よりもメリットが大きいのだ。もちろん感染予防対策は十分に実施した上で、面会時間を短縮して許可をした。これもまた功を奏し、「姫野病院は面会させてくれるから」と他院からの転院が相次いだ。こちらが患者家族を信頼していることも伝わったのではないかと思う。
 経営陣は患者家族だけでなく、従業員のことも信頼している。日頃から当法人では自律分散型組織を目指しており、その一環として従業員ひとりひとりの声を直接「耳より提案箱」にて吸い上げている。これはGoogleのシステムを活用しており、従業員はスマホから気軽に意見を経営陣に投書できる。第三波、再び保健所から新型コロナ患者の受け入れ要請が相次ぐ中、今度は院長の独断ではなく、現場の従業員に受け入れ可否の決定を委ねた。筆者としては、この一年の従業員の疲労の蓄積を肌で感じていたため、出来れば年末年始を親族と穏やかに過ごした後に受け入れを再開しては如何かと考えていた。

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