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コラム
 
VUCA時代の経営戦略「現場の力」
谷村 美保
Pony wildfire office代表
現場主義の看護部長 MBA

 現代はVUCAの時代と言われて久しい。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった造語である。それは、社会環境が複雑化し、先行きが不透明で将来の予測が困難な状態のことである。まさに、私たちはこの2年あまりのコロナ禍で、VUCAの時代を体感し、どうにもならない状況に耐え、価値観や行動を大きく変化させながら対応してきた。

 また、保健医療政策においては、2040年頃を見据えて、診療報酬改定や医師の働き方改革の推進など、非常に強いメッセージが出されている。私たちは、これらの受け取ったメッセージを、自施設でどのように活かしていくかが問われている。そして、経営においては、より一層の地域連携の強化を図り、生活者の主体的選択を社会全体で支えること、医療の質の維持、職員のモティベーションの維持を考えておかなければならない。タスク・シフト/シェアにおいても、各資格・職種に関する法令等の規定や役割を理解し、どの職種がどの業務を実施することが患者にとっての最善なのかなど、多くのことを考えながら効率化と収益増を図っていく必要がある。

  私は、このような時代に経営戦略を実現するには、「現場の力」が不可欠であると考えている。現場を中心に事業や経営を動かしていくのである。それは、単にセクショナリズムで小さくまとまることではない。大きな目線で何が正しいことなのかを判断し、明確に本質をつかむことである。現場が最前線で動き、目標に対して試行錯誤を重ね、その結果を経営層と共有し、柔軟に組織の方向性を変えていくという過程が大切なのである。

  「現場の力」には、人材の採用や育成をはじめとしたマネジメントが重要になってくる。紙幅の関係上、私の現場での取り組みの紹介は割愛するが、VUCAの時代は、その性質から地域連携においては、同質のコミュニティよりも多様な人材が集うコミュニティづくりをめざす必要があると考えている。コミュニティの中で対話し、リフレクションし、そしてイノベーティブな活動に結び付けることである。それゆえに、その中でそれぞれが持つ異なる能力を発揮できる人材を育成するには、定型の育成計画ではなく個人に合わせた計画やサポートの充実が求められる。ディーセント・ワーク、ワーク・ライフ・バランス、キャリアデザイン、メンタルヘルスケアなどを網羅したオーダーメイドの計画である。

 組織理論家のワイク(1997)は、非常事態の中で組織を存続させるためには、今、何が起きていてどこに向かっているかの意味付けし行動を決定する「センス・メイキング」の力が必要であると述べている。また、組織行動学者のエドモンドソン(2017)は、これからの組織は、あらゆる階層のメンバーが、意思決定を行うように「リフレーミング」する力(枠組みを変えて別の感じ方を持たせること)の重要性を示している。私は、現場主義の看護部長として、そのような「現場の力」を発揮できる人材を、オーダーメイドの計画で育成し続けたい。

カール・E. ワイク (1997)『組織化の社会心理学』文眞堂
Amy. C. Edmondson (2017) “Wicked-Problem Solvers” Harvard Business Review On Point, FALL

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