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コラム
 
デジタル化ー患者情報共有、そして例えばChatGPTとの付き合い方
メディサイト 松村 眞吾

 国による強力な医療デジタル化の推進が図られている。マイナ保険証義務化、電子処方箋の開始、オンライン診療のさらなる推進などである。自宅からオンライン受診して処方箋は電子処方箋で発行してもらい、薬は配達してもらう。そんな図を、経済界も参戦してどんどん進めようという風景だ。
 診察は五感をフルに使って行なうものであり、オンライン診療は医学的には馴染まないとする意見も強くある。一方で、かかりつけ医が患者の病歴から生活情報までも知った上でオンライン診療、これには意味があるのではないかという意見も強まっている。イギリスでは登録した家庭医(GP)にかかるには、前もってオンライン(または電話)によるトリアージを受けてから、という方向にある。慢性疾患における、いわゆるDO処方の患者に対しては、対面診療を3ヶ月に1回、間の月はオンラインで様子を診ることで、管理の向上を図るといったことも有効なのではないかと言われている。要は何が患者にとっての価値になるか、それが最小限の医療資源で可能になるかを考える、ということだろうか。

 患者情報共有ということにおいて、地域1患者1カルテを実現するという地域医療連携システムの導入が図られている。何とかネットと命名されて、電子カルテ情報を地域内の医療機関で共有できるようにしようというものである。ID-LINKSやHuman?Bridgeというシステムを使って構築される。ただし、システム間の相互乗入の問題(相互参照ソフトがあって解決不能ではない)、何よりもシステムを使う動機付けがない(せいぜい開業医が市民病院に検査予約するといった程度)などで普及が進まない。デジタル化というのは、それによって手間暇が省けることがなければ進まない。キャッシュレスがなぜ進むかというと、それによって支払いが楽になりポイントが溜まるからである。しかもスマホで簡単に…今の医療デジタル化に、その視点が抜け落ちている。1患者1カルテは、これからも進まないのではないか。

 可能性はいろいろある。マイナ保険証によって患者の同意があればレセプト情報が一覧できる。カルテ情報ではないので診療的には限界があるが、飲み合わせなど服薬管理においては役に立ちそうだ。マイナカードもポイントで釣るだけでは駄目で、どういうお役立ちがあるかをアピールしなければ、本当の普及にはなって行かない。電子処方箋など、まさにそうであろう。アマゾンの参入が黒船みたいに言われているが、アマゾンが調剤薬局に出て来ることはない。あくまでもプラットフォーマー(プラットホームを提供する存在)であり、中小の調剤薬局が手を組んでアマゾンと結べば、そこで初めていろいろと変わって来るだろう。ポチとスマホ画面を触れば、処方箋が薬局に飛んで服薬指導も受けられ、薬も自宅に配達される。そういう具体的な絵姿を見せることが必要である。
 そういった意味で、患者情報共有はなかなか困難だと思うわけである。医療機関と薬局の間で、特に大手調剤薬局(+アマゾンなどプラットフォーマーを介して中小薬局?)で共有されるだけでも大きいと考えて前に進めることだろうか。

 可能性として注目されるのがAIである。ChatGPTの話題は大きな衝撃となって語られる。今のAIは深層学習(ディープラーニング)という機会学習を行なう。コンピュータとは、言わば名人の技をたくさん記憶して高速処理するから「素晴らしい」ものだったが、AIは自ら学習していく。教師役としての人間は要らない。画像診断、主訴、体調の変化をチャットで入れていけば、最高の名医よりも間違いのない診断を下し、治療法を示す…人間の医師は必要あるのか? 
 よく考えてみたい。AIは価値に基づく判断はしない。してはいけない。そして知識を深めてくれるが、それから先は人間の役割と考えたい。状況を見極めて考えて、その状況における最適解を出してみて、それを患者本人や家族とコミュニケーションを重ねることで、ものごとを前に進めていく。考える力、それが必要となる。世の中の色々な難しい問題、環境問題、経済のこと、少子化など等、学習を重ねるだけで解決するなら、この世は天国である。現場で論理的に考える力、これを強化するためにChatGPTを使ってみたい。いかがだろうか。できるところから情報を共有化する。まずは法人内部でチャットアプリを使ってみる。

 マイナ保険証のレセプト情報活用、薬の問題解決から始めてみよう。オンライン診療の落とし穴(コミュニケーション、特に「雑談」は出来ない)は、ChatGPTを使うことで補えるかもしれない。医療経営者は全体像をイメージしながらも可能なことから始めることを考えたい。もちろんバックヤード業務のデジタル化など、当たり前と知っておくべきであり、それを前提にしたい。

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