コロナ禍開けの現在、「ウェルビーイング」が政策、企業経営などで注目されている。ウェルビーイングは英語ではwell-beingで、happiness, life-satisfactionなどと呼ばれることがある。このウェルビーイングを測るデータとして、「幸福度」がある。
「幸福度」のデータは、アンケート調査で個人に直接、「あなたは幸せですか」と尋ねて自分の感じている主観的な気持ちを答えてもらい、それを幸福度というデータとする。もちろん、幸福度が主観的なデータである点にはデータとしての信頼性の点で批判があり、例えば、悲観的な人と楽観的な人がいて、その人の性格が幸福度の回答に影響を与えてしまうのではないかなどの指摘もある。しかし幸福度は、人々の幸福の感じ方という、社会全体が重要だと思ってはいるがあいまいな感情を、データとしてとらえて数量化し、議論に載せていくことができる点が魅力的だ。
では、人間の幸福感をデータ化するメリットは何だろうか。幸福は曖昧な個人の感情だが、数値で幸福の程度が分かれば、幸福感の程度を、社会全体で、確認することが可能となる。具体的には、自分たちの社会はどの程度豊かなのかについては、幸福だと感じている人が多ければ豊かな社会と考えることができるからだ。
では、企業経営でウェルビーイングが注目されている理由は何だろうか。ひとつは、人手不足を背景として働く人々の環境整備と向上が議論され、人的資本経営を目指すという流れがあるものと思われる。もう一つは、働く人々が多様化し、それぞれが重要と感じる幸せ感の多様化があるだろう。従来の日本は一億総中流社会であり、個人の考える「幸せ」のイメージはある程度は共通だったが、現在の日本は脱中流社会となり、「幸せ」イメージの多様化が進み、年代、職種、性別などの属性によって、共通な面も、そうでない面もありそうだ。
英語のwell-beingは、「人として良き状態」という意味もある。個々人が自身のウェルビーイングを高めるように行動したいのは当然だろう。一方で、さまざまな立場の人々が協力して仕事を進める職場では、自分が大切にする幸せ感と職場の同僚では違いがあり、そのことに気がつかない場合にはすれ違いが生じ、双方が違和感を覚えることになるかもしれない。
研究や政策では、ウェルビーイングを、幸福度というデータとして「見える化」することで、その向上などを議論することが可能となった。職場ではどうか。職務満足度などのデータ収集で、働く現場の主観的な満足感を定期的に調査し把握することは重要だろう。そして「見える化」の別の切り口として、職場の個々人が、自分のウェルビーイングを言語化することで見える化しそれを周りに伝えることで、同僚のウェルビーイングも尊重しつつ自分が大切にしているウェルビーイングを実現していくことが望ましい。その第一歩は、忙しい生活の中では案外と言語化ができていない場合が多いであろう自身にとってのウェルビーイングのイメージを言語化することからスタートしてはどうか。