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コラム
 
診療報酬改定を直前にして−何が重要か、を考える
メディサイト 松村 眞吾

 春の連休が終わり、診療報酬改定も目前に迫ってきた。課題は山積するが、診療所/中小病院の外来診療と地域包括医療病棟などが絡む救急のことについて論じたい。厚労省の現状認識と対応についてはしっかりと理解した上での議論である。何か肝心なことが抜けていないか、についてだ。

 開業医らが注目する外来診療料について整理しておきたい。特定疾患療養管理料(特疾)対象疾患から糖尿病、高血圧症、脂質異常症が外れ、その代替として生活習慣病管理料2が新設された。診療所の減収を最小限に抑えつつ(「適正化」の方向は堅持しつつ)治療中断など厄介な問題を抱える生活習慣病の診療体制を整備していきたいという厚労省の意図が透けて見えて来る。糖尿病重症化予防など悲願とも言えるが、その具体策を何とか形にしていきたいという意図である。それに対する診療所/中小病院の側に対応はどうなっていくのか。

 趨勢としては「生活習慣病管理料2を算定して減収を最小限に抑える」ということであり、関連するセミナーなどでは、そのための具体的な注意点を解説している。療養計画書に同意のサインをもらうことが最大の要点だと言わんばかりである。療養計画書について患者側はどう思うのか。ある糖尿病専門医は言う。「患者さんにとってジャマくさいもの」というのが本音だろうと。つまり療養計画書にサインをもらって生活習慣病管理料2を算定して、さて一安心…と考えて良いのか、というとそうではない。それでは患者離れを招くリスク大と知っておきたい。

 栄養療法は?運動療法は?ストレスのかからない具体策を提示しなければならない。中小病院にとってはチャンスかもしれない。多職種の存在が鍵となる。私事になるが、人間ドックのレポートを親しい保健師に見てもらっている。実に分かりやすく実行しやすく健康改善策を解説してくれる。保健師、管理栄養士、フィットネスクラブなどとの連携を考えたい。一人院長+看護師だけではない病院にとっては管理料算定の納得が得られやすい環境にある。だから中小病院にとってチャンスかもと書いた。診療所は療養計画を実践してもらうための具体策提案とネットワーク構築が必要となる。

算定テクニックはYouTubeでも教えてくれる。患者離れにならないよう、患者満足の実現を説く解説が意外に少ない。報酬算定が事業目的ではない。患者ニーズを満たすことで報酬が得られる。長寿リスクもあってか高齢者の受療率も趨勢的に低下している。「選ばれる診療所/病院」にならなければならない。

 さて救急について書く。コロナ禍を経て救急現場も一息ついているところだが、人材不足が深刻化することは間違いなく、対策を打っていかねばならない。だから「下り搬送」評価が、医療介護連携の評価が、今回の改定の注目点となった。地域包括ケア病棟(地ケア)では 医療資源的に対応が難しい誤嚥性肺炎や尿路感染症患者、しかも複数疾患を持つマルチモビディティ状態にある高齢者の救急問題を何とかすべく地域包括医療病棟というカテゴリーが新設された。地域包括ケアシステムが、コロナ禍もあって未完に終わっている現状に、水際作戦的に組み立てられたのが今回改定の内容と理解している。その陰で隠れた問題が、現段階では課題だろうか、実はある。

 50代の救急搬送が増えているとの報告が幾つかの病院で上がっている。この世代は、バブル崩壊後の、いわゆる就職氷河期に社会人になった世代であり、非正規雇用であったり結婚できないまま孤独孤立の状態に置かれている人々も多い。健康にも悪影響を受けている世代である。全日本病院協会などによれば、急性期医療の需要は2025年がピークであるとされる。その予想を覆すような状況が生まれているかもしれない。高齢者救急に目を奪われている内に、比較的若い層の救急の問題、それに対する課題解決を考えなければならない状況が見過ごされている。

 急性期入院料1(7対1)病棟の診療密度がさらに求められランクダウンするか、入院単価を考えて地ケア病棟からランクアップするか、地域包括医療病棟を選択するかどうか迷う病院も多い。病床稼働率を考えると7対1を維持するのも経営的にはしんどい。 そこに影を差す「失われた世代」の救急問題…救急現場に求められるのはトリアージとタスクシフト/シェアの構築であろう。そしてトリアージとは救急現場ではなく介護施設における日常の取組みであり、タスクシフト/シェアとは医師や看護師の負担軽減のこととイコールではない。救急救命士などの専門性活用でありリハビリ職なども救急現場に投入し、これを評価するということである。事務補助者を置けば看護師のケアはグッと充実する。データは既にある。ランクダウンと言えば、7対1から地域包括医療病棟に移行するならば看護負担のことも考えておく必要がある。少ない人数で今までと同じケアをやれと言えば、離職率を高めることとなる。

 「下り搬送」に取り組めば入院なしの場合、1,800点の算定が可能になる。だから「下り搬送」に取り組むのではない。救急現場における医師、看護師、医療職のイキイキと働く環境を作ってこそ救急現場の持続が可能となる。それを考えたい。エンゲージメントを高める策を講じつつ、診療報酬の適切な算定と増収を考えたい。生活習慣病診療とは異なる職種構成となるが、やはり多職種チームをどう組み立てていくか、が可否を握る。

 患者ニーズを把握し治療中断と患者離れとしない多職種チーム構築と連携、適切なトリアージと「断らない」救急受入れを可能にするためのエンゲージメント向上を考えたタスクシフト/シェアの具体化が必要となる。それを可能にするのが、これは触れなかったがデジタル化の取組みである。

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