家庭医のクリニックづくりと、そのネットワークを支援しています

ホーム 会社概要 事業概要 お知らせ コラム リンク
コラム
 
医療経営−最近の喫緊課題
メディサイト 松村 眞吾

 コロナの一服、空前の人手不足、激震が走った診療報酬改定、物価高騰、デジタル化(DX)の急速な進展など等、いやそれだけでなく本格化してきた超高齢化と人口減少もあって医療経営は操舵の難しい時代に突入した。幾つかの整理をしておきたい。
 人手不足のこともあって人件費負担が経営者の頭を悩ませる。病院などでは人件費率50%が健全な水準とされてきたが、これを上回って来るのは仕方ないことと考えるしかない状況になっている。診療報酬で手当てされたベースアップ評価料で補えるものではないからだ。他産業と比較して賃上げ率が低いのは良いことではない。職員に我慢させると転職先はなるから離職につながっていく。人件費は投資であると考えるしかないか。

 ある自治体病院が独立行政法人化された時、民間から起用された副理事長は行政から要求された「医師看護師以外の職員の給与削減」を断った。「問題は給与ではなく生産性だ」というのが理由だった。タスクシフト/シェアはもちろん業務見直し(カイゼン)、DXを徹底することが重要となる。コストの問題ではなく生産性を考えるということは、提供医療の質を上げることにも、実はつながっていく。
 大胆なことを言えば、診療報酬請求業務(いわゆるレセ業務)は必要な業務なのか、という提起もあって良いと考える。在宅医療などは本人負担分請求が月1回であり、アウトソースする動きがある。外来入院でも月初めのレセ業務はどこまで必要か。レセプトチェッカーは性能が上がっているし、RPA(Robot-Process-Automation=標準化された業務の機械化)とAIを組み合わせればレセ業務の自動化は可能だという議論もある。そうなっていくだろう。現段階でもチェッカーを使えば、多少の請求漏れがあっても人件費との比較でどう考えるか。駅改札の無人化が進んでいる。乗越精算収入は減っているかもしれない。それでも鉄道会社は無人化を進めている。

 医療事務にやってもらいたい仕事は、ひとつは、医療職とのコミュニケーションにより正しい請求が可能となる基盤を作ってもらうこと。エコーを使ってカルテに記載しないことでどれだけの逸失利益があるか。DPC病院にあっても出来高データは役所に提出しなければならない。そこで機能評価係数が大きく変わる。カルテ記載は転院転医の時の診療情報提供にも貢献するのではないか。今ひとつは超高齢化(80歳代90歳代の患者増加)にあって患者家族の相談対応が重要化するので、ソーシャルワーク業務にも対応していくということ。下町の整形外科医院の受付では医療費に関する制度の相談が普通にあるはずだ。在宅部門の事務職員はレセ業務より相談業務に精通して欲しい。カルテの充実、ソーシャルワークの充実は提供医療の質の向上にもなる。

 今ひとつDXについて考えておきたい。AI活用で調べものをした人には分かるだろう。AIは見事に答えてくれる。ただ会議議事録作成が自動で正確にできても、問題・課題解決のための判断は人間がしなければならない。AIの文章から、そこの現場において可能な、実装できる解決策は見えない、と言うか判断できない。DXは下手をすると職員の「考える」力を劣化させて経営悪化を招きかねない。だからこそ肝の業務に集中させるために、じっくり取り組ませるためにDXが必要となる。画像診断をAIで行ったら医師の仕事はどうなるのか。超高齢化で複雑化した病状の高齢者患者において確定診断も大事だが治療をどうしていくかがより重要となる。そこはプロフェッショナルとして医師にじっくり考えて欲しい。患者本人、家族は生活していく上で、何を選ぶべきかに悩む。これらの例は、やはり提供医療の質の向上と経営向上につながって来る。

 フランスの在宅入院制度を学べば、DX活用による病床仕様の効率化と在宅医療の充実化が見えて来るのではないか。入院予定、退院直後の在宅患者の状況をセンサーで一覧、可視化する。佐賀県にある織田病院のMDB(Medical-Base-Camp)の試みは、在宅医療を入院とそん色のない水準で提供する試みとなっている。D to B with N(看護師が患者傍についてのオンライン診療)は対面診療に劣らないオンライン診療を可能とする。建築費高騰の中、老朽化した病棟の建替えもままならないが、DXにより病床規模は縮小しても医療職など医療資源はそのままで効率的な医療提供が可能になる。考えてみたいところだ。

 診療アウトカムを向上させて集患増患を図ることも考えたい。ドクターXはドラマとしては面白いが現実的ではない。優秀な医師、看護師を集めれば診療アウトカムは向上するのか。よく考えて欲しい。現代医療は、特に増えつつある在宅医療はチームによって担われる。目的の共有、メンバー相互のリスペクト(尊敬)、心理的安全性(言いたいことが言える)といったチーミングによって機能するチームがつくられるとエドモンドソン教授は論じる。このことは人口減少地域(もはや日本の大部分)における病病・病診など地域連携、場合によって地域医療連携推進法人などによる地域での機能統合につながって来る。自動車はエンジンだけでは動かない。エンジン、ブレーキ、パワートレーンなどをつなぐシステムがあって初めてその自動車の性能が発揮される。医療チームも全体をコーディネートするマネジメントがあってこそのものである。
 ヒトのこと、DX、チームマネジメントについて論じてみた。他にも問題・課題は山積している。質の向上と効率化・生産性向上、それによる経営の向上によって難局を乗り切ることは可能である。自由診療に乗り出していくのも一手ではある。ただ、従来からの保険診療中心であっても可能になることは、収益を改善していくことは可能だと考えて欲しい。

ページの上へ