※以下は診療報酬増額改定を否定するものではなく、財務省の主張を肯定するものではない。念のため書き添える。
病院経営、診療所経営のいずれにおいても経営の危機が叫ばれている。人件費や諸物価高騰に診療報酬が追いついていっていない、むしろ「適正化」(つまりは減額)されていく傾向にある。このままでは我が国の医療基盤が崩れていく。だから診療報酬の増額改定を行うべきである、という診療側の主張が強まりつつある。一方、財政を預かる財務省側、保険者側は、国民医療費の増加(コロナ禍が始まった2020年度は43兆円、2023年度は47兆円強)が続くとして、逆に医療費の抑制を主張する。
データを見てみると各年齢層で受療率が低下傾向にあることが見て取れる。高齢者の受療率低下が目立つ。加えて地方においては人口減少が著しい。首都圏においても、ある医療圏では地域医療支援病院、イメージで言うと300床規模の自治体病院などは、医師看護師不足で一部病棟を閉鎖する一方、全体の病床稼働率は7割水準で、当然のごとく赤字経営に苦しんでいる。かかりつけ医機能を担うとされる診療所はどうか。多くの地方では人口減少に伴い閉院が相次ぐ状況となっている。大都市部も大阪などでは供給過剰と言える状況がある。
つまり、一般急性期や診療所などは構造不況業種となってしまっている。診療報酬の増額改定で解決できる段階を超えてしまっていると言えるのではないか。
だから急性期病床廃止に1床当たり410万円の補助を出すという「病床数適正化支援事業」に申し込みが殺到したのだろう。撤退戦が始まっていることを否定しても始まらない事態となっている。加えて病棟建替えに立ちはだかるのが未曽有の建築工事費高騰である。なにも病院だけではない。東京有力立地にあってもプロジェクトが振出しに戻るという事態が起きている。地方では、兵庫県など病院統合が進むが、統合新築となれば投資回収はまず無理であろう。
これから地方の。中小病院は有床診療所への転換が進むだろう(進めなければ始まらない)。財政破綻した夕張市ではそれが上手くいった。震災と水害で大きなダメージを受けた能登では、公立病院4院を統合して新しい総合病院をつくる構想がある。投資財源調達とそこで働く医療者の確保は可能だろうか。そもそも恵寿総合病院という立派な民間病院がある。一般急性期は供給過剰(あるいは人手不足で稼働できない)時代を迎えた。徳洲会など大手病院グループは着々と傘下病院を増やしている。「経営」を考える前にそこに住む人々の生命安全を守ることが医療者の任務だという意見もある。どうしたら可能になるのか。一般急性期が縮小していくから、減っていく患者を奪い合うというのは「経営」でも何でもない。必要とされる医療と「やりたい」医療のズレは時代ともに大きくなっていく。需給に合わせること(役割、機能を需要に合わせる)、減少していく医療需要に合わせて医療供給を調整していくこと、地域で最適な医療とは何かを考え連携などを進めていくことが必要であり、それを考え実践していくのが「経営」である。地域医療を維持していくためのコストを賄うため、診療報酬の意味は大きく、的確に定を進めていって欲しい。ただし、診療報酬を上げるだけでは受療率をさらに下げ、人口減少と相まって、さらなる経営の危機を招く可能性もある。認識したい。
新しい地域医療構想は以上のことを見越している。地域における病院間の診療科統合を含む再編成(地域医療連携推進法人はもっと活用されて然るべき)、需要増加が見込まれる地域包括医療病棟への転換促進、地域密着の包括的な医療介護経営などを考えていかないとならない。急性期の旗を降ろすのは「敗北」だと言わんばかりの空気はいかがなものか。選定療養費活用による救急の減少も始まった。一般急性期の「荒野」と回復期の「欠品」が続くのは良くない。一般急性期の荒野が広がる時、地域医療は取り返しのつかない危機に陥る。