多くの地方において人口の減少が急で、かつ超高齢化が進む。医療機関があってもそこに働く医師、看護師らも足りない、確保できないという実情がある。北海道夕張市は破たんして市立病院が有床診療所にダウンサイジングされたが、地域医療は壊れなかった。震災に遭った能登の場合はどうか。輪島や珠洲の市立病院は災害拠点病院に指定されていたものの、どこまで震災後の地域医療を支えることができていただろうか。公立病院を統合して新たな総合病院を能登空港近くにつくろうという計画が出てきているというが、建築費も高騰する中、震災がなくても交通事情に課題があった地域にあって、それで医療へのアクセスは十分に確保できるだろうか。
地方の、公立病院などの経営は危機に瀕している。「総合病院」を維持しようという経営は破たんするしかない状態にあると言って良いだろう。産科や小児科を中心に診療機能が停止しているところも多い。多くの病院、診療所が外来患者の送迎を行っている。在宅患者に対する訪問診療は移動時間がかかり、とても対応しきれない。超高齢化は急性期機能では対応できず(急性期患者は減少しつつある)、期待される病院総合診療医は圧倒的に数が足りない。そして在宅支援の地域包括ケア病棟(地ケア)と複数疾患を持つ(マルチモビディティ)高齢者患者の誤嚥性肺炎など重篤な救急受入れを担うとされる地域包括医療病棟、この二つの病棟の間の溝を埋める存在があるのかないのか。
「在宅医療は都市部でしか成り立たない」という論に対し「医療へのアクセスは確保されるべき」という「正論」がある。それに対して、地方における医療へのアクセス悪化に対する解決策はないのか。あると考える。看護資源の活用とデジタル活用である。
医師不足で閉院となった国保診療所など、医師確保ができなくなったので閉めます、で良いのだろうか。閉院するから看護師は解雇…というのは地域医療の在り方を知らない策だと言えないか。国保診療所は看護師が常駐する「暮らしの保健室」とすれば良い。それは保健師の役割だと言うのは、保健師の仕事と人数を知らない発言である。デジタル活用で何ができるか。各地で医療MaaSの実証実験が行われている。看護師が乗り組んで地域を回れば、D to P with N(看護師付き添いのオンライン診療)が可能になる。中山間地など外来患者を送迎するのが当たり前になっていることは述べたが、医療MaaSで医師の負担、患者(特に高齢者)の負担は大幅に軽減される。看護師が付き添っていれば診療の質も担保できる。人口減少と超高齢化が深刻な地方においても可能性は確実にある。
地方における医療へのアクセスを重視して病医院の配置を従来のままとするのは、資源の有限性を考えない時代遅れの論であるとしか言えない。在宅医療においても患者宅にセンサーなどを設備することにより、入院と同じ水準の病状把握は可能であろう。病状に応じて訪問診療のチームが無駄なく移動できるようにすることも、一部では実用化されている。デジタルの可能性、医療機器の進歩(エコーなども進化した)は、人手(投入人的資源量)と医療の質は相関するという昔前の神話を、確実に神話、伝説でしかないものとしつつある。もちろん医師と患者家族の間のコミュニケーションの課題はじっくり取り組まなければならないことではあるが、増えていく地方の高齢者医療に対してデジタルは有効な手段であると考えたい。