国民医療費は年間50兆円に達した。病院の7割は赤字経営という。建替え工事費の高騰もあって閉院する病院も出始め、東京の吉祥寺のような人口が多い地域でも「突然の閉院」と驚かれる事例があって、世間がざわついている。一方で現役世代の負担軽減と増加し続ける医療費の財源が問題となってきた。いわゆるOTC類似薬の保険適用縮小や高額療養費制度の見直しも確実な状況だと言えよう。
人件費と諸物価高騰が病院経営を苦しませているのは間違いなく、次回診療報酬改定で多少なりとも手当てがあるのは間違いないだろうが、1%の報酬上げは5,000億円と言われている状況下、とても十分なものは期待できないと考える。赤字の原因はコスト高だけではないことを、まず押さえておきたい。そしてそのコスト面に対する関心の薄さを感じるのはなぜかを考えたい。
300床規模の市民病院などが典型的な赤字病院だろうか。人件費諸物価高騰で増収しても追い付かない、医師や看護師不足から収入機会を逃しているなどの言い分が聞かれる。一方、こういった病院で急性期病床の稼働率が軒並み7割を切るような地域が見られる。背景には急性期入院需要の減少がある。人口減少超高齢化に伴う構造的な問題と言える。病床が多すぎるという解釈ができる。需要と供給のミスマッチである。
国は「急性期拠点」病院に高度急性期機能を集中させようとしている。病床が入院を作り出すというデータがある。超高齢者(85歳以上)にとって、いや80歳ともなると急性期入院がフレイルの元となる。これは厚労省高官が講演で述べている。普通に理解できる話だろう。誤嚥性肺炎などの「高齢者救急」と軽症救急やポストアキュートなどの「地域急性期」が地域における入院機能の中心にしていくということになる。「在宅連携」、「専門医療」といった分類もあるが、要は人口減少が著しく高度急性期需要の減少に対しては高齢者救急などの重点を移した医療提供を求めている。
少子化に伴う産婦人科や小児科などは医業損益で判断すべきではないだろう、新しい評価軸が必要となる。急性期入院需要が減っていく中では、臓器別専門医療より総合診療機能が求められる。地域の実情に応じた医療提供を考えなければならない。総合診療医療には課題が山積する。必死に考えなければならないだろう。医療の集約化が求められることは医療へのアクセスの問題となる。そこでは連携強化やDXによる課題解決が必要となる、医療DXを生かしたオンライン診療は拡大させていくべきだろう。
コスト面の課題があまり意識されていない。なぜバックオフィス機能の集約が議論されないのか。レセプト業務などDXで自動化すべき業務と考える。レセプト業務よりソーシャルワーク機能の強化だろう。人手不足が否応なく深刻化していっていることもある。大きな病院の路面床(1階)の広い部分が医事課スペースで占められている。もったいない。商業床は無理でも、企業との協同研究開発拠点などとして活用したいところだ。医事課は診療情報管理士が中心となって、経営分析や医療職との診療報酬共有機能を中心に業務を再編成したい。要するに生産性を上げよ、と言いたいのだが。
東京吉祥寺の閉院病院の後継に手を挙げた医療法人があったが、周辺の急性期病院の経営者らが反対している。武蔵野市や三鷹市といった人口は多いが市域面積の狭いところで、自治体ではなく診療圏という意識を持てば、急性期病床過剰の危機感は分かる。残念ながら病院団体などが掲げる次回診療報酬の10%上げは無理だろう。財政、現役世代負担の問題は避けて通れない。需要変化に応じた医療提供体制の構築、「議事録が自動的に出来た」とか「スライドが5分10分で」とか、そういったことに嬉々とするのではなく、DXの対費用効果、生産性向上効果を問い大胆なコスト削減も掲げてこそ意味がある。
AI活用による診療機能の向上と効率化、サマリーの自動生成などの成果も生まれつつある。これらについては稿を改めて論じたい。ここでは、医療経営における意識改革を提起したいと思う。いかがだろうか。