事務局と講師を務めたNPO法人プライマリ・ケア教育ネットワーク主催の「プライマリ・ケア塾・大阪」が盆の終わりにあった。人数を絞り込んでの参加型研修の試みである。臨床からコミュニケーション、お金や人といった経営のことに至るまでプライマリ・ケアの現場で必要なことをいろいろな角度から学んでいただいた。
プライマリ・ケアのスキルは意外と難しい。全人的医療というものを実践できなければプロとはいえない。患者さんとのコミュニケーションはいかにいろいろなことを訊き出すかが難しい。スタッフとの関係性で医療の質は変わって来る。在宅医療は、ターミナルでの痛み(疼痛)管理も重要だが、様々な関係者との共同作業であるところにポイントがある。お金のことも避けては通れない。プライマリ・ケアは「儲かる」商売ではない。プライマリ・ケアの魅力、難儀なところ、身に付けるべきスキルなどすべてを講義する試みは他に余りないことだと自負している。講師も受講者の側もプライマリ・ケアが好きで、地域医療に参加したいという想いが強いから出来ることなのだろうか。
将来を見据える若き医師、開業を目前に控えた内科医師、開業後の更なる研鑽を目指す院長先生など参加者は様々。講師は総合診療部教授、患者相談や模擬患者活動を行うNPO関係者、家庭医を実践する開業医(プライマリ・ケア学会役員)、在宅医療実践医師、診療所事務長や税理士、社会保険労務士といった経営サポート専門家など。講師陣はプロと呼ばれる人々を集めたつもりだ。プロだからこそボランティアかと思ってしまう低報酬なのに夏休みを潰して馳せ参じてくれる。そして熱き2日間が過ぎていった。
プライマリ・ケアの現場では概ねの「正解」はあるが、100%の「正解」はない。そう思っている。だから今回の「塾」も徹底した議論を重ねながら進行していった。少人数短期集中の「塾」ならではの展開。「なるほど」「そうか」「やってみよう」という空気が参加者の中に満ちていた。「ボヤッとしていた地域医療への考えが、具体的な形になって見えてきた」というのが、ある参加者の感想。別の参加者は「ほぼ全てが新しい知識でもあった」と想いを新たにしていた。
私にとっても新たな学びがあった。患者の立場では、大事なことでも、なかなか言えないことがある。そのことを、時には初対面の医師に話さなければならない。例えばセックスについてだ。確定診断の下った(病名が定まった)入院患者さんに対しては必要ないスキルかもしれない。あらゆる可能性を考え、患者さんの言いにくいことも必要ならば情報として話してもらえるようにしなければならない。聴く話すのコミュニケーションのスキルがいかに重要か、また難しいか、しかし身に付けなければならないかを学んだ。
こうやって2日間が終わった。受ける側も講じた側も、濃密な時間に満足できたと思う。
会場としてお借りした木戸医院(大阪市東淀川区)の中庭での記念写真に、それを見ることが出来る。
※会場を提供していただいた木戸先生その他の関係者に心から感謝したいと思います。