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コラム
 
有床診療所ホスピスはどのように地域の人を看取っているか 

はじめに
 私たちは可能な限り長期の在宅療養や在宅での看取りを希望している末期状態の患者を支援するため、日夜活動している。終末期医療に関する報告書(厚生労働省平成16年)によれば終末期の在宅看取りにおける市民の医療的不安要因は「状態急変時の緊急対応」が57%と最も高く、次が緊急時受入病院(27%)、在宅医の存在(27%)などであった。我々は100%の約束で24時間365日在宅患者に対応し、95%の確率で必要時に緊急入院できる「有床診療所〜訪問看護ステーション連携モデル」を2004年から開始している。一方発癌の最大リスクは加齢であり、近未来において国民の死因に占める悪性腫瘍の割合は今後も増加して二人に一人が癌死する事が予測され(中川)、ターミナルケアニーズは増加するが、厚生行政の歩みは遅々としており今後も医師数の著増は見込み難い。将来予測に鑑みより少数の医師でより多くの末期患者のターミナルケアを達成できるかどうか有床診療所ホスピスを拠点とした医師・看護師連携モデルの成果について報告する。

私たちの看取りシステムについて
 2005年〜2009年の5年間で在宅及び病棟での看取数および、在宅/入院の選択可能な診療圏(おおよそ車で20分以内の距離)に居住する終末期患者の在宅/入院看取り比率の変遷を調べた。我々のスタンスは、「患者のQOLや死別後の家族の達成感・満足度の観点から基本的には在宅での看取りを勧めるが、いざという時には95%の確率で希望の家病棟に緊急入院可能であり、紹介元病院や地域の病院も含めて、ほぼ間違いないく早急に入院先を確保する」と明言し、患者・家族が随時に在宅・入院の選択ができることを保証している。そのため、19床の診療所病棟のうち常時2床の緊急入院用ベッドを確保すべく努力している。医師は常勤医1名(演者)および非常勤医6名(常勤換算1.2名程度)であるが、夜間祝祭日のオンコール(緊急対応)は平日の2日を除いてすべて常勤医1名で賄っているため、常勤医師のオーバーワークを軽減し、持続可能な在宅・病棟看取りシステムを構築する必要がある。

 在宅については訪問看護師が常時ファーストコールを担当し、患者から医師に直接電話がかかることはなく、看護師は医師からの電話指示や包括的事前指示に基づいた症状緩和や必要なケアを行い、夜間死亡時には翌朝に往診担当医が死亡診断書作成のために伺っている。ちなみに訪問診療は平日毎日行っている。入院についても夜間死亡時には原則として翌朝死亡診断書を作成している。また最近では医師法第20条但し書き部分(診療中の患者が受診後二四時間以内に死亡した場合に限り、改めて死後診察しなくても死亡診断書を交付し得る)に則り、永眠間近が予測される患者については、あらかじめ死亡診断書を作成して夜間死亡が発生した場合の夜間退院に対応している。

看取りの成果
 2005年から順に年間総看取り件数は142名、187名、183名、247名、260名、うち在宅看取り件数は、36名、52名、57名、66名、61名、病棟看取り件数は106名、135名、125名、181名、199名と増加傾向で推移している(表参照)。この数字は常勤医一人あたり100人以上の看取が可能である事を示唆している。また近隣居住者の在宅看取り割合は32%、38%、38%、39%、36%で毎年安定した割合であり(図参照)、地域住民に一定の在宅看取り志向があることがうかがえる。

 以上から医療システムの整備があれば欧米先進国並みの在宅看取りが可能であることが分った。ちなみに近代ホスピスの草分けであるイギリスのセントクリストファーホスピスにおける在宅看取り率は35%である。医師看護師関係が役割分担(分離)モデルから役割共有(権限委譲)モデルに移行すれば、常勤医師1人当たり年間100名以上看取ることが可能であり、近未来の深刻な医師不足への一つの有力な対応モデルと思われる。

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