家庭医のクリニックづくりと、そのネットワークを支援しています

ホーム 会社概要 事業概要 お知らせ コラム リンク
コラム
 
 事務長は何を考えるか 
 メディサイト 松村 眞吾

 医療福祉経営は難しい。制度に左右されることがあって難しいのか。それもあるが、それが主因ではない。済生会熊本病院の経営改革などで知られる正木義博氏(現済生会横浜市東部病院院長補佐)は「診療報酬ばかりに注目するのが事務長の仕事ではない」という意味のことを言っておられる。事務長のやるべきことは何か、なぜ医療福祉経営は難しいのか。

 医療経営で難しいのは医師の参加、看護部の協力をどう得るか、とよく言われる。福祉経営での難しさは、人材の絶対的不足と質の向上をどうするかの問題である。何れも組織全体のベクトルと各職種のベクトルが、なかなか一致しないという点に問題がある。医師は専門職としての自律性が極めて高く、福祉職の人々も現場で介護や世話することが重要であり、例えばIT活用などに抵抗したりする傾向がある。事務長は専門職でなく、医師など医療職や相談員など福祉職からは、軽んじられることはなくとも信頼できる経営陣の一員とは見做されていない。だから診療報酬、介護報酬への対応に存在場所を見つけるのだろうか。

 急性期病院でDPCの導入が進んだ。大雑把に言って診療報酬の疾患別定額化の制度であるDPCにおいては各病院の診療データが公開されている。治療法、投薬内容、画像検査などが公開されているから、より効果的で患者さんに負担がかからず、かつ低コストの治療法を知ることができる。それだけではない。地域における自院のポジション、他院のポジションを知ることができる。DPCデータは治療法の選択から経営企画、マーケティングに至るまで多方面に活用できるデータベースを実現した。ここ数年、このデータ解析の専門職である診療情報管理士の存在が重要化してきている。

 診療情報管理士が活躍する病院では、組織が変わりつつある。院長や診療部長といった幹部の医師が診療情報管理士の話に積極的に耳を傾けているのである。医師はエビデンスを重視する。DPCデータに基づくエビデンスある分析は説得力がある。医師だけではない。医療職はエビデンスある議論にはポジティブに反応する。相手が医療職である必要はない。福祉現場でも、なぜIT導入が必要なのか、を筋道立てて説明する義務が経営側にある。
情報共有や業務上の効率化(=本来業務の充実)を、エビデンスを示して説明すれば、理解と納得を得ることは可能である。

 医師、看護師、相談員など医療福祉での専門職は、組織ではなく職務に対して忠誠心を持つ。そのことが往々にして組織全体の目標を無視または軽視することにつながる。各々の専門職の本来あるべき姿と組織全体の目標を統合させることは可能であり、それはエビデンスを持って提起することが肝要である。事務長は資格職ではない。だからこそ、職種部署を横断しての議論をリードできる。医事の専門家である必要はないと、そう言っても良いのである。

ページの上へ