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コラム
 
病院原価計算の意義とは
聖路加国際大学常任理事 法人事務局長 渡辺 明良 氏
 病院原価計算は、医療サービス提供というアウトプットに対する経営資源のインプットを測定し、その妥当性の検証をもとに、経営改善つなげるツールとして位置づけられる。

 これに対して、「正しく(正確性)、早く(迅速性・適時性)、安価に(経済性)」実行することが病院原価計算に要求される。しかし、正確性と迅速性・経済性は相反する。例えば、原価データを診療部門にフィードバックする際に、原価データの正確性を要求される事例などである。しかし、正確性を追求しすぎるあまり、配賦基準を詳細に設定し、計算結果を抽出するまでに多くの時間と労力を費やしてしまう、ということや、精緻な原価計算を行うために多額のシステム投資を行う事例など、病院原価計算の失敗事例の多くが、必要以上の時間とコストであることも事実である。

 これに対応するためには、原価計算の目的に応じて、原価の範囲や手法などを整理する必要が生じる。例えば、「総原価」を対象とした階梯式配賦法による従来の病院原価計算ではなく、「医業管理費」を除外して「医療原価」を対象に業績評価を行う方法や、直接費を用いて業務改善につなげる方法などが考えられる。また、医業収益に対応した医業費用が抽出されるように財務会計を洗練化するなど、「原価」そのものに対する定義や範囲を再考する必要がある。さらに、収益をシェアリングする方法やセグメント会計など、多様な原価計算手法の適用も対応策として考えられる。

 一方、病院がgoing concernとして機能するうえで、利益は次の医療サービス提供に向けて再投資される。この点において、病院原価計算は事業計画や予算計画への反映等に重要な貢献を果たすことになる。

 この場合、病院全体の事業計画策定と戦略実行および戦略レビューを、病院経営管理プロセスとして定着させる必要がある。これにより、採算性の改善や業務効率化、システムや人材への先行投資などの経営意思決定に際して、原価情報が活用されることになる。また、このプロセスを通じて、経営課題に対して最も優先度の高い課題や、病院全体で取り組むべき課題などが明らかになる。

これらの取り組みによって、病院原価計算はより実務的に整理されると同時に、病院原価計算の議論が単なる手法論や手続論ではなく、経営管理への活用の段階に進むのである。

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