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コラム
 
平成26年度なでしこの会を通じて
なでしこの会を通じて 〜連携するって〜
※名古屋市名東区の多職種連携の会

チームビルディング・・・人事労務用語
 同じ一つのゴールを目指し、複数のメンバーが個々の能力を最大限に発揮しつつ一丸となって進んでいく―そうした効果的な組織づくりや、チームをまとめる手法を「チームビルディング」という。コーチングやファシリテーションなどとともに、リーダーに求められるマネジメント能力の一つである。

簡単に言うと『仲間が思いを一つにして、一つのゴールに向かって進んでゆける組織作り』のこと。
これが、昨今医療・介護・福祉業界におけるネットワークづくり、多職種連携おいても活用できる概念かと思われる。

なでしこの会 運営委員(精神保健福祉士=PSW)より 

 定義はさておき、精神科医療のPSWとして外来受診調整や入退院調整を行ってきて感じたことは、“連携”なくしては仕事が進まないということ。患者・家族、多職種の間に入り調整をすることを仕事としてきた職種としてはこれまで当たり前だと思ってやってきたという思いもある。

 改めて一言に連携と言っても、地域連携、多職種連携、多機能連携、‥‥さらに院内連携(以外に難しい)等など、連携という言葉の概念自体、多岐に渡る。そして、その根幹をなすチーム医療という言葉ですら数十年前から耳にしている。医療の現場では医師一人の決定ではなく、それぞれ専門職の対場からの意見を出し合い、その過程で患者本人や家族の意思決定が尊重されるようにと。本当にそうなのか?

 さらに、医療と介護の連携が進まない。病院と在宅医療の相互理解、精神疾患は分からないと専門分化してきた提供者側の区分けも、サービスの受け手である利用者側からすると、その縦割り自体に違和感があるのではないかと、でもなかなかその壁は崩せない。

 誰も好き好んで、病気だけになりたい訳ではないだろうし、介護だけを受けたいと願っている人もいない。医療も介護も障がいも‥制度を併用している人は多い。例えば、
○高齢者で介護が必要でもあり、慢性疾患のため病院に定期的に通う人
○若くても難病があり介護が必要な人
○自分も介護を受けている、また家族は障害者
○金銭的に困窮      などがある。

 また、本人だけでなく、その家族までを支援対象者とした場合、ひとつの制度、枠だけでは完結しない。もちろん、生活すること全部となるともっと支援する制度、枠は広がる。(年金、生活保護、後見人等など)。制度のはざまにある方が救われない、有志で奉仕的な活動してきた人もたちもいるだろうが財政的なバックアップがなくしては疲弊し継続しない。そういうジレンマがありつつ現場を担っていた。

 そして、平成24年度の介護保険法改正時に“地域包括ケアシステム”という文言が出てきたときに、これまで漠然としていたものが少しは整理されたように感じた。それが進めばとてもよい世の中になるのではないか。現在、平成26年現場から少し離れて見ていると、システムの構築をと仕組み作りは先行しているが、まだまだ肌で連携がスムースにいっているとまではいっていない。

 そういった思いを根底にしながら、当グループで地域包括ケアシステム作りの一環として在宅医療と介護の連携の会とを、民間主導型で取り組むことになった。そして、運営委員として企画・運営することになった。


具体的な人の動き

 平成24年度から在支診・在支病カンファレンスが始まった。1年目は、在宅事業部の職員が中心となって運営した。2年目よりは、病院看護部長はじめ病院職員が中心となる。平成26年度3年目に入り、より、地域との連携という意味合いが出てくるため在宅事業部の職員、病院ソーシャルワーカ(SW)
が運営委員という立場で企画・運営することになった。また、地域連携のため、当グループ内職員にとどまらず、同じ区内で活躍している医療・介護従事者を運営委員として参加いただくことした。

 運営委員のメンバー構成について、訪問看護事業所、居宅介護支援事業所を中心とした。これは、「なでしこの会」が在宅医療と介護の連携会議として位置付けられているため、この職種から選ぶこととした。選出事業所先について、法人内の訪問看護師・居宅(運営委員)の職員から人柄、実績等で直接、声をかけた。また、この方たちが行政主導の地域包括ケアシステム構築の地域ケア会議内「認知症      部会」「在宅医療・介護連携推進部会」の委員となっているため、行政の動きとも連動しやすいこともあった。


なでしこの会運営委員(神谷氏と梅本氏)

◎なでしこの会の企画・運営を振り返り課題も見えてきた。

 まず一つ目は、毎月1回開催のため、スピーディに研修会や事例検討会を企画していくことが求められる。運営委員の所属が異なることから、日程調整と準備のために、定期的に勤務時間外に集まるなど実務との優先順位が悩めるところである。
参加者の方々が、興味を持って参加していただけることと、運営委員が楽しくかつ達成感が得られるような内容、そして負担感が少ない方法で継続していけるように心がけてきた。
そして、理念にある「地域で暮らしたいを支える」を実現していくには、をいつも頭に浮かべながら話し合いを進めてきた。

 二つ目は、会の開催場所が病院施設であることと、開催時間が夜間になる、会の開催場所の階下が病室のため、静かに移動すること、物音などへの配慮が必要である。また、会場の収容人数には制限があり、グループワークなど広いスペースを必要とする場合は60人が限界となる、多職種連携を方針としているが、今は名東区の医療・介護連携の全職種まで声かけできていない。

◎今後の課題としては、常に理念「地域で暮らしたい、を支える」と基本方針「顔の見える対等な関係づくり」と「多職種で目指せ、ワンストップサービス」を意識しながら‥

 平成26年度は多職種で集まって、“顔のみえる関係性づくり”からスタートいくこととしたが、関係作りとはすぐに結果が出るものではないと思う。集まることだけが目的とならないように、とご指導いただくこともあったが、焦らず、ゆっくりと・・・継続する関係作りを取り組んでいきたい。そして平成27年度からは現在進行形のケース、今困っているケースを解決する場としての機能も果たしていきたい。(ワンストップサービスの構築)

 そして、この会で「お土産」を持ち帰れる場であるということ。日頃、誰もが課題やもやもや感を抱きながら業務を担っていると思うが、次の業務に活かせる場として参加者のお互いが“WIN WINの関係”が築けることができるとよいと考える。

 最後に、こういった連携を目的とした多職種会議は、医師が参画していないと人が集まらないと実感している。医師にも参加するメリットを感じられるような会としていくこと。但し、医師だけに気を遣いすぎることは、多職種が同じ目線合わせをする上では公平ではない。

 また、同じ区内だけでも何種類もの連携をテーマとした集まりがあり、目的が重複していることもある。参加者からすると何か所も参加することは負担があるため、いずれ別の会との融合を図っていきたいとも考える。

以下、参考

11月23日の第10回 在宅医療推進にて 柏市長 秋山氏による
“顔の見える関係性”とは、しょせん人間関係のこと。一緒に仕事をすることで培われる。
最初の段階は、そういった場を設ける接点を作ることで意識的に集まった。その仕組みをつくる。
今度、利用者のことで相談したい時に、顔見知りとなっているので、相談しやすくなっている。
同じテーブルで、同じ話をする、地域の医師会が旗振り役となる。医師側から同じ目線合わせをするようになると、連携が進む。


第10回 「在宅医療推進フォーラム」〜新しい地域社会の創造に向けて〜から

青森県立中央病院 医療管理監・緩和ケアセンター長

・平成26年度より、地域包括ケアのシステム構築に向けて取り組むが本格化。
・少子超高齢化、多死時代を迎えるにあたっての準備段階。
・戦後より目指してきた社会のあり方およびこれまでの医療のあり方を現在社会に住まう人々のニーズに合わせ、また、近未来の社会状況にあわせて見直し、新しい地域社会および医療のあり方を模索する取り組みでもある。

・地域包括ケアシステムの5つの要素、医療、介護、予防、福祉・生活支援、住まい。その中核となるのが医療と介護。各地域の状況に即した在宅医療体制の構築であるとされる。
この在宅医療体制の構築は、平成18年から始まっているが、これまでの約8年間の取り組みの成果を見ると、地域でばらつきがある。

〇取り組んでいく上での障壁(バリア)
1、 受け皿となる在宅医療側の体制の不備(訪問診療を行う医療機関・訪問看護ステーションの不足、後方支援病院・中間施設の不足)
2、 送り手となる急性期病院側の(特に医師の)@在宅に関する理解不足、A病院完結型志向(治すことへの執着あるいは紹介することに対する抵抗感)、B病気や病状に関する説明不足(特に治らない疾患や病態に対し)
3、 地域住民の意識(病院信仰、治すことへの執着、紹介されること対する抵抗感など)。
この中でも2、3は意識変容が必要な事項である。

・「地域包括ケアシステムと病院医療〜川上から川下までのネットワーク化〜」特に急性期病院の医療従事者に地域包括ケアを理解、あるいは意識してもらうための具体的方策について議論する。

・「病院完結型」の医療から「地域完結型」の医療への転換が成功すると、これまで一つの病院に居続けることができた患者は、病状に見合った医療施設、介護施設、さらには在宅へと移動を求められることになる。居場所の移動を伴いながら利用者のQOLを維持し家族の不安を緩和していくためには、提供先が移動先への紹介を準備するシステムの確立が求められる。ゆえに、高度急性期から在宅介護までの一連の流れ、容体急変時に逆流することさえある流れにおいて、川上に位置する病床の機能分化という政策の展開は、退院患者の受入れ体制の整備という川下の政策と同時に行われるべきものであり、川上から川下までの提供者間のネットワーク化は新しい医療・介護制度の下では必要不可欠になる。

【なでしこの会の運営を通じて感じたこと-病院長の立場から-】

一生懸命走っているうちに気づけばもう3年になろうとしている。早いものだ。
3年前に在宅医療と病院医療の橋渡しを目指して、名古屋市東部地域で在宅医療に取組んでおられる開業医の先生方と連携を始めた。当初は医師5人程が集まった。お互いがお互いをライバル視しつつ、腹の中の探り合いのような会議で、本音が語られる事も無く、形式的な会議であった。そうするうちにいつとはなく、『なでしこの会』と名前がついた。なでしこジャパンにあやかったわけではなく、名古屋市名東区の花がなでしこの花だったからである。医師限定の会議にしようと言う意見もあったし、実際に他の地域では医師だけに限った形で連携の会議を開いているところもあったが、私には多職種での連携を目指す会議にしたいという思いがあり、他の医師の皆さんにも同意して頂いた。『ごちゃまぜ』の会にしたかったのである。『ごちゃまぜ』の中から何かが生まれる事を期待していた。

1年が経ち、少しずつ訪問看護師やケアマネジャーといった職種にも勉強会と言う形で参加して頂いた。次第に参加者の輪が広がり、お互いにいわゆる『顔のみえる関係』が出来上がってくるようになってきたし、医師同士も少しずつ打ち解けあって本音で話が出来るようになっていき、地域内での病院-在宅医療の連携もスムースになっていった。患者からの信頼も深まっていったように思う。私の中での医師同士の連携の目的は航空機会社の『スターアライアンス』を真似たものだ。どの航空会社のフライトでも均質に同様なサービスが受けられるように、ドクターズアライアンスによって、均質でレベルの高い医療サービス提供体制を幅広くこの地域に創り上げることであった。

昨年度あたりから、地域包括ケアとか、医療と介護・福祉の連携強化というキーワードが叫ばれるようになり、最初は訪問看護師から、地域包括支援センターや介護福祉事務所・社会福祉協議会・保健所等と連携していきたいという意見があり、そうした意見を背景に、更に多くの職種間での連携を目指すよう行動に移していった。幸いにも医師会や行政も協力的で会議に積極的に参加して頂けるようになった。少しずつ連携の輪が広がってきたのである。

しかしながら,こうした多職種での連携活動,チームビルディングによる地域包括ケアシステム構築を目指していくうちに幾つかの課題が目に映ってきた.

最も大きな課題は、多職種連携、地域包括ケアが目指していく共通の目標が良く分からない事である。地域包括ケアのための多職種連携会議、つまりみんなで集まることは何かの目的を達成するための手段であるはず。即ち会議は手段であって、目的ではない、アクションに繋がらなければ意味はないはず。しかし、医療人はともすれば手段を目的と勘違いしてしまい、集まることが目的となってしまう。悪い習癖だと思う。こうした会議や連携、そしてケアシステム構築を手段としながら、何を目標として達成を目指すのか?具体的に数値に落とし込んだ目標設定がそもそも見えないのである。

病院での医療行為にあてはめて考えてみよう。例えば、手術であれば手術成功率・5年生存率・合併症発生率・在院日数等が治療成績や医療の質を測る指標となる。また、最近では日本病院学会等が主導となって病院医療の質を測る指標(Quality Indicator)が導入されている。褥創発生率・転倒転落発生率・院内感染の発生率といったものが具体的な指標となっていき、こうした指標が昨年度と比べてどう推移したか?またこうした質の向上や指標の改善のためにどういった努力やアクションを行っていったか?その成果はどうであったか?これを検証する事で医療の質が向上したか、医療が進歩したのかが可視化できる。「手術成功率が昨年度85%だったものが今年度は90%まで上昇した」といえば、質が向上したという事が誰の目にも分かり易い。医療は「やりっぱなし」ではいけないのである.プロフェッショナルである以上、自らのアクションの成果を具体的に数字で把握してなくてはならないと思う。

振り返ってみて、在宅医療や地域包括ケアにおいてはこうした医療の質や安全性を測る指標、アウトカム指標やプロセス指標が乏しい。チームビルディングをするにしても、例えば高校野球チームを作るのであれば、「甲子園を目指す」といった、具体的で分かり易い目標がなければ、何のためにチームワークを作るのか?何を目指してトレーニングをするのか?分からなくなっていくであろうし、ただただ、集まっていても何もならない。そのうちにお互いの利害が対立して、分裂するだけである。地域包括ケアが目指す医療の姿、そしてそれを分かり易く指し示す物差しがなければ、本当に絵に描いた餅になってしまう気がする、そう思えてならない今日この頃である。

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