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コラム
 
会計研究者から見た医療福祉

 会計の定義はさまざまであるが、アメリカ会計学会が1966年に公表した基礎的会計理論報告書 (ASOBAT; A Statement of Basic Accounting Theory) によると、「情報利用者が、判断や意思決定を行うにあたって、事情に精通した上でそれができるように、経済的情報を識別し、測定し、伝達する過程」として定義される。すなわち、会計とは、組織内外の情報利用者の判断や意思決定に資する情報を、どのように生産し、伝えていくかが鍵となる。

 このような会計情報の生産および伝達を考えた場合、医療・福祉組織は非常に複雑かつ不明瞭な構造を有している。医療・福祉組織は、医療法人をはじめ、社会福祉法人、公益社団・財団法人、学校法人、都道府県、市町村、独立行政法人、生活協同組合など多様な法人形態が医療・介護サービスを提供している。これらの法人形態ごとに適用される会計基準は、病院会計準則、社会福法人会計基準、公益法人会計基準、学校法人会計基準、公会計、独立行政法人会計基準など、それぞれ異なっている。もっとも重要なことは、会計基準ごとに設定された目的が相違しており、重視される情報利用者が異なることである。医療・福祉組織は、とりわけ外部者からみた場合、非常にわかりにくい状況にあるといってよい。医療・福祉組織において、会計情報を活用する参入障壁は非常に高いのである。

 このような複雑かつ不明瞭な構造を有する医療・福祉組織は、これまでどのような経営が行われているのか、法人形態ごとにどのような差があるのか、提供される医療・介護サービスごとにどのような特徴があるのか、必ずしも定量的に明らかではないと考えている。参入障壁は高いものの、会計情報は有力な武器になる。異なる会計基準から生産された会計情報がどのような意味を持っているのか、また経営者による調整の程度を検討した上で、会計情報を用いることによって、医療・福祉組織の経営的な持つ強みと弱みを定量的に識別することができるであろう。加えて、法人形態ごとの相違や、提供される医療・介護サービスごとの相違が明らかになれば、根拠のある医療・介護の政策形成に貢献することができるであろう。

 わが国の医療・福祉業界では、地域包括ケアシステムや地域医療構想に始まる劇的な制度改革が進められている。このような制度改革は、医療・福祉組織ごとの利害の対立をもたらすことが容易に推察できる。医療・福祉組織に説得する材料が必要であり、会計情報の活用が力になるであろう。今後のわが国にとって、もっとも重要な産業といっても過言ではない医療・福祉業界に、会計研究によってこれまで得られた知見が貢献できる可能性は広がっている。

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