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コラム
 
地域包括システムで求められる
都市部中小病院の機能とそのための自己変革
整形外科医 大阪公立大学大学院都市経営研究科
教授 岩崎 安伸 氏 氏

 人間は、高齢になると生物の必然として肉体的な能力が低下してくる。そのために移動能力の低下をきっかけに排泄能力の低下、摂食能力の低下を来たし、いわゆる他人による介護が必要になってくる。20世紀の後半に進んだ産業構造の変化をきっかけに日本をはじめいわゆる先進国では核家族化が進んできた。その結果、高齢者のひとり暮らしの世帯が増加している。大家族では家族内で提供できていた介護は、核家族化した社会では国家にそれを求めるようになった。

 国家の国民に対する役割、すなわち社会保障制度の目的は、国民にあまねく標準的な社会保障サービスを提供するということである。公共政策的な研究によれば、社会保障制度が整ったほうが、社会全体の医療に対するコストを下げられると言われているが、あまりにも寛大な制度になればモラルハザードを生じ、当然財政上の問題も生じる。日本では、諸外国に比べて高齢化のスピードが速かったことや、また20世紀後半のめざましい医療の進歩のなかで、人はかならず死を向かえ、そのまえには肉体的に衰えていくという事実を直視できなくなり、制度的あるいは社会的に高齢社会への対応が遅れたといえる。社会保障をあまりにも医療に依存していた反省から、2000年から介護保険が導入されたが、国民の健康ひいては地域社会の健康は決して医療だけ達成できないことが明白になってきた。さらに、医療と介護だけでも無理で、生活支援や予防など多岐にわたる職種による地域での取り組み(多職種協働)やそのシステム作りが不可欠であることが分かってきた。現在、厚生労働省のホームページには「地域包括ケアシステム」の概念図が掲載されている。

 地域、特に都市部の中小病院に求められている機能は明白である。すなわち、地域のかかりつけ医と連携し、病院での治療が必要になった場合には入院治療をあるいは自宅での生活までのリハビリテーションを行うということである。これは、ここ最近の診療報酬改定においても病床再編として誘導されていることである。実際には、すでに多くの中小病院はケアミックスや回復期リハビリ病棟、療養型への変換を行っており、病床機能としては社会保障制度の意図するところに向かっているといえよう。

 しかしながら、この地域包括ケアシステムへの対応が遅れている職種がある。医師である。なぜなら、現在までの臓器別講座制のもとでの医師教育やトレーニングのなかで、演繹的に単一の疾患に関する知識や治療をマスターすることが重視されてきていたため、帰納的に患者を人として理解し、その上で疾患や症状を把握、治療プランを計画するするトレーニングは受けていないのである。したがって、現在、特に都市部の中小病院に求められているのは、自院の機能と地域のニーズに全く合致しないまま臓器別専門医と称して非効率な医療を行っている自院の臓器別専門医に対して、地域における自院の役割を理解する「意識改革」とニーズに一致したプライマリ・ケアができるように「再トレーニング」に取り組むことである。

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